高齢者介護施設やサービス付き高齢者向け住宅において、「鍵」のあり方は、入居者の「安全確保」と「自立・尊厳の尊重」という、時に相反する二つの重要なテーマの狭間で、常に模索が続けられてきました。かつての施設では、安全管理を最優先するあまり、全ての部屋を一括で施錠し、入居者の自由な出入りを制限するという、画一的な管理が行われることも少なくありませんでした。しかし、近年、テクノロジーの進化は、この鍵のあり方に、大きな変革をもたらそうとしています。その主役が、IoT技術を活用した、最新の「スマートロックシステム」です。このシステムを導入することで、施設は、入居者一人ひとりの状態に合わせた、きめ細やかで、かつ人間らしい、新しい形のセキュリティ管理を実現することが可能になります。例えば、各居室のドアにスマートロックを設置し、入居者は、専用のICカードや、腕時計型のリストバンド、あるいは指紋認証などで、自分の部屋を自由に施錠・解錠することができます。これにより、個人のプライベートな空間が確保され、他の入居者が勝手に入ってくるのを防ぎ、入居者の尊厳を守ることができます。一方で、施設側は、管理用のパソコンから、全ての部屋の施錠・解錠状態を、リアルタイムで一元的に把握することが可能です。また、誰が、いつ、どの部屋に出入りしたのかという履歴(ログ)も全て記録されるため、万が一の際の安否確認や、行動パターンの把握にも役立ちます。さらに、認知症による徘徊のリスクがある入居者に対しては、特定の時間帯(例えば夜間)になると、その方のカードキーでは、居室棟の出口のドアが開かなくなる、といった、個別のアクセス制限をかけることも可能です。これにより、他の元気な入居者の自由な外出を妨げることなく、リスクの高い方だけを、さりげなく見守ることができます。スマートロックは、単なる鍵の電子化ではありません。それは、画一的な管理から、一人ひとりの尊厳に寄り添う、個別ケアへと、介護の質そのものを進化させる、大きな可能性を秘めたツールなのです。
高齢者施設と鍵の新しい関係