我が家は、郊外の静かな住宅街に建つ、ごくありふれた一軒家です。新築から十年以上が経ち、玄関の鍵も、特に不自由なく使えていたため、交換の必要性など、これまで全く考えたことがありませんでした。しかし、その平和な日常に、小さな、しかし確実な影を落とす出来事が起こりました。それは、隣の家が、空き巣の被害に遭ったのです。幸い、家人が不在で、大きな被害はなかったとのことでしたが、その手口が、ピッキングによるものだったと聞き、私は全身の血の気が引くのを感じました。警察の方の話では、被害に遭った家の鍵は、我が家と同じ、旧式のギザギザした鍵だったそうです。「このタイプの鍵は、プロにかかれば、数分で開けられてしまいますよ」。その言葉が、私の頭の中で、何度もこだましました。その日から、私の心は休まらなくなりました。夜、物音がするたびに、誰かが侵入してきたのではないかと、心臓が跳ね上がる。日中、家を空ける時も、常に家のことが気になって、仕事に集中できない。このままでは、精神的に参ってしまう。そう感じた私は、妻と相談し、すぐにでも玄関の鍵を、防犯性の高いものに交換することを決意しました。インターネットで信頼できそうな地元の鍵屋を探し、見積もりを依頼しました。勧められたのは、ピッキングに極めて強いディンプルキータイプのシリンダーと、補助錠の増設による「ワンドアツーロック」化でした。費用は、合計で約七万円。決して安い金額ではありませんでしたが、これで家族の安心が買えるのなら、必要な投資だと、私たちは迷わず決断しました。交換作業は、半日ほどで終わりました。新しくなった玄関は、二つの頑丈な鍵が、まるで仁王像のように、頼もしく構えています。その夜、私は、何ヶ月ぶりかで、一度も目を覚ますことなく、朝までぐっすりと眠ることができました。物理的な鍵を交換しただけなのに、私の心の中の、不安という名の重い扉にも、ようやく固い鍵がかかったような、そんな晴れやかな気持ちでした。
一軒家の鍵交換を決意した私の体験談