それは、ルームシェアを解消して半年が経った頃のことでした。私は以前の同居人に返したはずの合鍵を、実は一本だけ手元に残していました。万が一、同居人が荷物を出し忘れたり、急な用事で連絡が取れなくなったりしたときのため、という自分勝手な正当化をしていました。もちろん、大家さんには内緒で作った三本目の鍵です。ある日、その近くを通った際、以前の部屋に忘れ物がないか確認したいという衝動に駆られました。今の住人に連絡すれば済む話でしたが、気まずさもあり、ついポケットの中の合鍵に手が伸びました。 誰もいないことを確認し、鍵穴に差し込みました。しかし、驚いたことに鍵は一ミリも回りませんでした。錆び付いているのかと思い、少し力を込めてみましたが、全く手応えがありません。その時、背後から「何か御用ですか?」という低い声が響きました。心臓が止まるかと思いました。振り返ると、そこには管理会社の担当者と、見知らぬ清掃業者の男性が立っていました。私は真っ青になり、適当な言い訳を探しましたが、手元にはしっかりと「合鍵」が握られていました。 「その鍵、どこで手に入れましたか?」担当者の目は鋭く、私の手元の鍵を凝視していました。彼はそのまま、私が差し込んでいた鍵を取り上げ、まじまじと観察しました。「これはうちが支給したものではありませんね」。実は、私が退去した直後、防犯上の理由からシリンダーが新しいものに交換されていたのです。古い合鍵が使えないのは当然でした。私が持っていたのは、もはや存在しない錠前の、無断で作られた複製品という「契約違反の証拠」そのものでした。 その後、私は管理事務所へ連れて行かれ、厳しい追及を受けました。なぜ合鍵を隠し持っていたのか、他にも持っている人物はいないのか。大家さんにも連絡が行き、不法侵入の一歩手前だとして厳重注意を受けました。さらに、以前の同居人にもこの件が伝わり、築き上げてきた信頼関係は完全に崩壊しました。「予備として持っておくだけなら」という軽い気持ちが、これほどまでに大きな騒動に発展するとは想像もしていませんでした。 鍵は、その場所へのアクセス権だけでなく、住む人のプライバシーと安全を象徴するものです。それを無断で複製し、隠し持つという行為は、相手の領域を侵害する意志があるとみなされても仕方がありません。あの日、鍵が回らなかったことは、私にとって最大の幸運だったのかもしれません。もし部屋に入れてしまっていたら、事態は警察沙汰になっていたでしょう。バレないと思って作った一本の合鍵が、自分自身の社会的な信用をどれほど脆くさせるか。あの冷や汗をかいた午後のことは、今でも悪夢として思い出します。
隠し持っていた合鍵が露見した瞬間